この記事のポイント
- 配偶者居住権は2020年4月1日から始まった新しい民法の制度
- 残された配偶者が無償で自宅に住み続ける権利を法的に保障
- 所有権ではないので売却・譲渡は不可。だが固定資産税は使用者が負担
- 取得には遺産分割協議・遺贈・家庭裁判所の審判のいずれかが必要
- 第三者に対抗するには登記が必須(登録免許税は固定資産評価額の0.2%)
配偶者居住権とは?
配偶者居住権は、被相続人(故人)の配偶者が、相続後も生前と同じ自宅に無償で住み続けられる権利を法的に保障する制度です。2020年4月1日施行の改正民法で新設されました(民法1028〜1041条)。
制度ができた背景
従来は「自宅の所有権」と「住む権利」が一体だったため、配偶者が自宅を相続すると、その評価額が高額なせいで現金や預金の取り分が極端に減るという問題がありました。
従来制度の問題(具体例)
遺産:自宅 4,000万円・預金 2,000万円(合計6,000万円)
配偶者と子1人で半分ずつ → 配偶者は自宅(4,000万円)を取ると預金は500万円しか取れず、子に1,500万円補填が必要に。
結果:自宅か生活費かの二者択一になり、高齢配偶者の生活が苦しくなる。
この問題を解消するため、所有権と居住権を切り離し、「配偶者は居住権だけ、所有権は子」という分け方ができるようになりました。
配偶者居住権の2タイプ
- 遺産分割で取得する
- 原則終身(生涯)
- 登記が可能
- 有償(居住権の評価額分)
- 民法1028〜1036条
- 相続開始で自動的に発生
- 期間は6ヶ月または遺産分割確定まで
- 登記不可
- 無償(特別な手続き不要)
- 民法1037〜1041条
本記事では主に「配偶者居住権(長期)」を解説します。
成立要件|4つの条件
▼ 配偶者居住権が成立する4つの要件
- ① 被相続人の法律婚の配偶者であること(事実婚・内縁関係は対象外)
- ② 被相続人が所有していた建物に相続開始時に居住していたこと
- ③ 当該建物が被相続人の単独所有または配偶者との共有であること(第三者との共有はNG)
- ④ 次のいずれかにより取得:遺産分割協議/遺贈/家庭裁判所の審判
法律婚の配偶者のみが対象。事実婚(内縁関係)には配偶者居住権は認められません。事実婚パートナーへの財産承継は遺言書での遺贈が基本となります。
期間と終了事由
配偶者居住権の期間は原則として終身(配偶者が生きている間ずっと)。ただし、遺産分割協議や遺言で期限を限定することも可能です。
| 終了事由 | 説明 |
|---|---|
| 配偶者の死亡 | 相続性なし(次の世代に引き継がれない) |
| 期間満了 | 遺言・協議で期限を設定した場合 |
| 建物の滅失 | 火災・地震などで建物が消滅した場合 |
| 所有者と配偶者の合意 | 双方の合意で消滅 |
| 用法違反による消滅請求 | 用法違反・無断転貸を所有者が請求して認められた場合 |
登記の方法と費用
配偶者居住権を第三者に対抗するには、登記が必要です(民法1031条)。登記しないと、所有者が建物を売却した場合に新所有者から退去を求められるリスクがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登録免許税 | 建物の固定資産評価額 × 0.2% |
| 申請者 | 配偶者と所有者の共同申請が原則 |
| 必要書類 | 遺産分割協議書/遺言書、戸籍謄本、登記識別情報、印鑑証明書 |
| 所要期間 | 申請から1〜2週間 |
| 司法書士費用 | 5〜10万円 |
配偶者居住権を登記しないと、所有者が物件を第三者に売却した場合、買主から退去を求められると対抗できません。必ず登記すること。
配偶者居住権の評価額計算
配偶者居住権は財産的価値があるので、相続税の計算上、評価額を出す必要があります。簡易計算式は次のとおり。
配偶者居住権の評価額(簡易計算)
建物の固定資産評価額 − 建物の固定資産評価額 × (耐用年数 − 経過年数 − 存続年数) / (耐用年数 − 経過年数) × 複利現価率
具体例
建物の固定資産評価額 1,000万円、配偶者の年齢 75歳(残存余命約16年)、建物の耐用年数 22年、経過年数 5年、複利現価率 0.7(年利2%の場合)。
- 建物所有権の評価 = 1,000万円 × (22−5−16)/(22−5) × 0.7 ≒ 41万円
- 配偶者居住権の評価 = 1,000万円 − 41万円 = 959万円
配偶者の年齢が高いほど居住権の評価が高くなる(残存余命が短いほど所有権の評価が低くなる)構造です。土地部分も同様に「敷地利用権」として評価します。
メリット|配偶者居住権を活用すべきケース
- ① 自宅と現金両方を確保できる:所有権を持たないため、現金・預金の取り分を増やせる
- ② 子の負担を減らせる:子は所有権だけ取得し、固定資産税・管理は配偶者が負担するので相続税の支払い余力が生まれる
- ③ 二次相続対策:配偶者の死亡時に配偶者居住権は消滅するので、相続税が二重にかからない
- ④ 再婚相手への財産流出を防げる:配偶者が再婚しても所有権は子に残るため、再婚相手に承継されない
デメリット・注意点
居住権は配偶者個人の権利のため、第三者への売却・譲渡は不可。介護施設入所などで自宅を出る場合、所有者と相談して合意解除(合意金で精算)するしかない。
配偶者が施設に入っても、自宅を勝手に賃貸に出すことはできない。所有者(子など)の同意を得ないと用法違反で消滅請求の対象に。
実態として住んでいる配偶者が固定資産税・修繕費(通常の必要費)を負担。所有者が大規模修繕の費用を出す。
所有者と配偶者の関係が悪化すると、用法違反などで消滅請求されるリスク。日頃から関係を良好に保つことが重要。
他制度との比較
| 配偶者居住権 | 通常の所有権相続 | 使用貸借 | |
|---|---|---|---|
| 取得コスト | 居住権の評価額 | 建物全体の評価額 | 無償 |
| 第三者対抗力 | 登記で可 | 所有権登記 | 原則なし |
| 期間 | 原則終身 | 永続 | 当事者の合意 |
| 譲渡可否 | 不可 | 可 | 原則不可 |
| 固定資産税 | 使用者負担 | 所有者負担 | 所有者負担 |
| 相続性 | なし | あり | 当事者の合意次第 |
遺言書との関係
配偶者居住権は遺贈として遺言書に書けます。遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合の文例:
第1条 遺言者は、その所有する次の建物について、妻○○○○に、終身にわたって配偶者居住権を遺贈する。
所在 東京都新宿区西新宿一丁目
家屋番号 1番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
第2条 前条の建物の所有権は、長男○○○○に相続させる。
配偶者居住権を遺言で確実に残したい場合は、無効リスクの低い公正証書遺言での作成がおすすめです。
活用事例|こういう家族にお勧め
夫が死去。妻が配偶者居住権を取得し、息子に所有権。妻は預貯金で生活費を確保しつつ、住み慣れた家で安心して暮らす。
夫の前妻の子と現妻が相続人に。現妻が配偶者居住権を取得することで、生活拠点は守られ、所有権は前妻の子に残るので関係が穏やかに。
配偶者居住権の評価が建物の半分なら、相続税の課税対象が減り、二次相続でも消滅するので税効率が良い。
まとめ|選択肢として知っておくべき新制度
配偶者居住権は、高齢化社会と多様化する家族関係に対応するために2020年に新設された制度。所有権と居住権を分離することで、配偶者の生活を守りつつ次世代に資産を承継するという、これまでなかった選択肢を提供します。
遺産分割で揉めそうなケースや再婚家族では特に有用。ゆいぽけのエンディングノートと遺言書ドラフト機能で、自宅をどう承継させたいかを生前に整理しておくことが、もしもの時の家族の助けになります。公正証書遺言の作り方、遺留分侵害額請求、生命保険と相続もあわせて確認してください。
