法的に有効な遺言書を作成するには、法律で定められた形式と内容の要件を正確に守る必要があります。ここでは、準備から完成までの具体的な手順と、特に注意すべき点を順を追って詳しく解説します。
遺言書作成の基本ステップ
ステップ1:準備 - 財産と相続人のリストアップ
まず、ご自身の財産をすべて洗い出し、誰に何を相続させるかを決めます。この準備が、後の作成プロセスをスムーズにします。
財産の把握
以下の資料などを参考に、ご自身のプラスの財産もマイナスの財産(借金など)も全てリストアップし、「財産目録」を作成しましょう。
- 不動産: 登記事項証明書(登記簿謄本)や固定資産税の納税通知書
- 預貯金: すべての銀行名、支店名、口座種別、口座番号(通帳のコピーも有効です)
- 有価証券: 証券会社の取引残高報告書など
- その他: 生命保険証書、自動車の車検証、骨董品や貴金属のリストなど
相続人の決定
誰に財産を渡したいかを明確にします。法律で定められた相続人(法定相続人)以外の人や、お世話になった団体などに財産を渡すこと(これを「遺贈」といいます)も可能です。
ステップ2:遺言書の本文を作成する
遺言書の中心となる部分です。誰が読んでも内容が一つに定まるよう、明確かつ法的に正確な言葉で記述することが極めて重要です。
1. タイトルと前文
まず、冒頭に「遺言書」とはっきりと記載します。続けて、遺言者(ご自身)が、明確な意思のもとで遺言を作成する旨を記述します。
2. 財産の分配内容
「誰に」「どの財産を」「どれだけ渡すのか」を具体的に記載します。曖昧な表現は避け、「相続させる」(法定相続人に対して)や「遺贈する」(法定相続人以外も含む)といった法的に意味の明確な用語を使いましょう。
1.〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号1234567
1.土地
所 在:東京都〇〇区〇〇一丁目
地 番:1番1
地 目:宅地
地 積:100.00㎡
2.建物
所 在:東京都〇〇区〇〇一丁目1番地1
家屋番号:1番1
種 類:居宅
構 造:木造スレート葺2階建
床面積:1階 50.00㎡、2階 50.00㎡
※不動産は、登記事項証明書の通りに一字一句正確に記載することが重要です。
3. 遺言執行者の指定
遺言の内容(預金解約や不動産の名義変更など)を実現する手続きを行う「遺言執行者」を指定しておくと、相続開始後の手続きが非常に円滑に進みます。相続人の負担を減らすためにも、弁護士や司法書士などの専門家を指定することは賢明な選択です。
住 所:東京都千代田区〇〇町〇番〇号
氏 名:司法書士 鈴木一郎(昭和〇年〇月〇日生)
4. 付言事項(ふげんじこう)
付言事項は、法的な効力はありませんが、ご自身の想いを伝えるための非常に重要な部分です。なぜこのような財産配分にしたのかという理由や、家族への感謝の言葉などを記すことで、相続人間の無用な争いを防ぎ、円満な相続を実現する効果が期待できます。
ステップ3:法律で定められた形式を整える
遺言書は、法律で定められた厳格な形式に従わないと、その内容にかかわらず無効になってしまいます。特にご自身で作成する自筆証書遺言の場合は細心の注意が必要です。
【自筆証書遺言の場合】
以下の「3つの絶対条件」を必ず守ってください。
- 全文の自書: 財産目録を除き、本文、日付、氏名をすべてご自身の手で書きます。パソコンでの作成や他人による代筆は認められません。
- 日付の自書: 「令和〇年〇月〇日」のように、作成した年月日を明確に記載します。「吉日」といった曖昧な日付は無効となります。
- 氏名の自書と押印: ご自身の氏名を署名し、印鑑を押します。法律上は認印でも有効ですが、実印を使用する方が望ましいでしょう。
財産目録の例外: 2019年の法改正により、財産目録はパソコンでの作成や、通帳のコピー、登記事項証明書の添付が認められるようになりました。ただし、その財産目録のすべてのページ(両面印刷の場合は両面)に署名と押印が必須です。
訂正方法: 間違えた箇所は修正液や修正テープを使わず、二重線で消し、その近くに正しい文言を書き加えます。その変更箇所に押印し、欄外に「〇字削除、〇字加入」などと変更内容を付記して、そこに署名します。
【公正証書遺言の場合】
公証人が遺言者から聞き取った内容をもとに文書を作成するため、形式不備の心配はほとんどありません。遺言者は、作成された内容を公証人、証人と共に確認し、署名・押印する形になります。
ステップ4:保管方法を検討する
【自筆証書遺言の場合】
- 封筒に入れる(推奨): 法的義務ではありませんが、改ざんや汚損を防ぐために作成した遺言書を封筒に入れることが推奨されます。封筒の表に「遺言書」と書き、裏に署名と作成日を記入した上で、遺言書本体と同じ印鑑で封印をします。
- 法務局の保管制度を利用する: 自宅での保管は紛失・改ざん・隠匿のリスクが伴います。法務局で遺言書を保管してもらう制度(手数料3,900円)を利用すれば、これらのリスクがなくなる上に、死後の家庭裁判所による「検認」も不要になるため、非常に有用です。
作成上の最重要注意点:「遺留分」への配慮
遺言書を作成する上で、避けては通れない最も重要な法的概念の一つが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
- 遺留分とは: 配偶者や子など、一部の法定相続人に法律上保障された最低限の遺産の取り分です(兄弟姉妹には遺留分はありません)。
- 遺言の効力: 遺留分を侵害する内容の遺言書も、それ自体がただちに無効になるわけではありません。
- 紛争のリスク: しかし、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った人に対して、侵害された分に相当する金銭を請求する権利(遺留分侵害額請求権)を持ちます。これが相続争いの最大の原因となり得ます。
ご自身の意思を尊重しつつも、残される家族が将来にわたって良好な関係を維持できるよう、遺言書を作成する際は、各相続人の遺留分に配慮した内容にすることが強く推奨されます。
ご自身の状況が複雑な場合や、法的に万全を期したい場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

