この記事のポイント
- 成年後見制度は認知症・知的障害などで判断能力が不十分な人を法的に保護する制度
- 2023年末で利用者は約25万人、需要に対してまだ少ない
- 「法定後見(後見・保佐・補助)」と「任意後見」の2種類がある
- 法定後見の申立費用は1〜2万円、後見人報酬は月額2〜6万円
- いったん始めると原則として解任・終了できないなど7つのデメリット
成年後見制度とは?
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が不十分になった人を、法律面・生活面で支援するための制度です。根拠は民法第7条以下、成年後見人等は財産管理と身上監護(生活・医療・介護契約の締結)を行います。
制度が必要になる典型例
- 認知症の親名義の不動産を売却したい
- 本人の預金口座からお金を引き出せなくなった
- 施設入所の契約を誰が代わりに結べばいいかわからない
- 障害のある子どものために一生を守る仕組みを作りたい
- 高額な契約(リフォーム・投資)をされるのを防ぎたい
法定後見と任意後見|2つのルート
| 法定後見 | 任意後見 | |
|---|---|---|
| 開始時期 | 判断能力低下後 | 判断能力低下前に契約 |
| 後見人の選任 | 家庭裁判所が選任 | 本人が選任(公正証書で契約) |
| 権限の範囲 | 法律で画一的に決定 | 契約で柔軟に設計可能 |
| 監督 | 家裁または後見監督人 | 任意後見監督人(必須) |
| 報酬 | 家裁が決定(月2〜6万円) | 契約で決定+監督人報酬 |
法定後見の3類型
判断能力を欠く常況。日常の買い物も難しい。後見人に広範な代理権・取消権。本人の選挙権は停止されないが、不動産処分には家裁の許可が必要。
判断能力が著しく不十分。借金・訴訟・相続など重要な法律行為に保佐人の同意が必要。代理権は個別に申立て必要。
判断能力が不十分。本人の同意が申立て要件。同意権・代理権の範囲を個別に決定。もっとも本人の自己決定権が残る。
利用状況の現状
最高裁判所事務総局の統計(令和5年)によれば、成年後見制度の利用者は約25万人。一方で、認知症高齢者は約600万人(2025年推計)と見込まれており、制度利用率は約4%にとどまっています。利用が伸び悩む背景に、コストの負担感、柔軟性の低さ、家族への不信感などがあります。
後見人ができること・できないこと
- 預貯金の管理・引き出し
- 不動産の売買(家裁許可制)
- 介護施設との契約
- 医療費・施設費の支払い
- 日常生活費の支出
- 相続手続き・遺産分割協議
- 税務申告・年金手続き
- 手術など医療同意(本人・家族のみ)
- 結婚・離婚・養子縁組
- 遺言書の作成
- 延命治療の可否判断
- 身柄監護(施設入所の強制)
- 本人の死亡後の事務処理(別途死後事務委任契約が必要)
法定後見の申立て手続き
- 1申立書類の準備
家庭裁判所サイトからダウンロード。医師の診断書・財産目録・戸籍謄本を揃える。
- 2家庭裁判所に申立て
本人の住所地を管轄する家裁へ提出。申立費用は収入印紙800円+登記収入印紙2,600円+郵券。
- 3調査官面接・鑑定
家裁調査官が本人・家族と面接。必要に応じて精神鑑定(費用5〜10万円)。
- 4審判・後見人選任
家裁が後見開始を審判し、後見人を選任。2〜4ヶ月かかるのが通常。
- 5後見登記・業務開始
審判確定後、後見登記(東京法務局)。後見人は財産目録を提出し、業務を始める。
必要書類
▼ 法定後見の申立て書類
- 後見開始申立書(家裁所定)
- 申立事情説明書・親族関係図
- 財産目録・収支予定表
- 本人の戸籍謄本・住民票
- 後見人候補者の戸籍・住民票・身分証
- 医師の診断書(成年後見用)
- 成年後見登記事項証明書(「後見等の登記されていないことの証明書」)
- 本人の健康保険証・預貯金通帳の写し
費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 申立費用(印紙・郵券) | 約1万円 | 収入印紙800円+登記印紙2,600円+郵券 |
| 医師の診断書 | 5,000〜10,000円 | 医療機関による |
| 鑑定費用(必要な場合) | 5〜10万円 | 家裁が判断 |
| 司法書士・弁護士の申立代行 | 10〜20万円 | 任意 |
| 後見人報酬(月額) | 2〜6万円 | 家裁が本人の資産額に応じて決定 |
| 後見監督人報酬(月額) | 1〜3万円 | 家裁が必要と判断した場合 |
後見人への報酬は、本人の預金等から家裁の決定に基づき支払われます。本人の資産が少ない場合は、自治体の「成年後見制度利用支援事業」で助成を受けられることがあります。
任意後見契約の結び方
任意後見は判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で選んで契約しておく仕組みです。公正証書での契約が必須です。
3つの契約タイプ
元気なうち→「財産管理委任契約」、判断力低下後→「任意後見」に自動移行。最もよく使われる。
契約と同時に任意後見監督人を選任し、すぐに任意後見を発動。判断力が既に低下している場合向け。
判断力低下時に監督人を選任して発動。元気な期間は契約のみ存在する状態。
7つのデメリット・注意点
後見開始審判が確定すると、本人が回復するか死亡するまで後見は継続。家族が「思ったより煩雑」で取り下げることはできません。
積極的な資産運用(投資・贈与・リフォーム投資)は原則不可。本人の財産を「守る」ことが最優先されるため、相続税対策もしにくい。
近年は第三者(弁護士・司法書士・社会福祉士)が選ばれる比率が約8割。家族が希望しても家裁が認めない場合あり。
10年続けば総額240〜720万円になることも。本人の資産が削られ、相続人の手取りが減る。
本人から子・孫への贈与は原則不可。相続税対策の選択肢が大きく狭まる。
後見開始審判を受けた人は一部職業資格(医師・弁護士・公務員など)が失効。保佐・補助では制限なし。
申立から審判まで2〜4ヶ月。緊急の不動産売却には間に合わないことも。
家族信託との比較
近年、成年後見の代替案として家族信託が注目されています。両者の違いをまとめます。
| 成年後見 | 家族信託 | |
|---|---|---|
| 開始時期 | 判断力低下後 | 契約時から(元気なうち) |
| 管理者 | 家裁が選任 | 本人が選任 |
| 資産運用 | 原則禁止 | 柔軟に可能 |
| 相続対策 | 制限あり | 実質的に可能 |
| 身上監護 | 可能 | 不可(別途必要) |
| 家裁関与 | あり | なし |
| 初期費用 | 1〜20万円 | 30〜100万円 |
| 継続コスト | 月2〜6万円 | 原則なし |
家族信託は資産運用・相続対策には優れますが、身上監護(施設契約・医療契約など)はできないため、任意後見+家族信託の併用が理想的です。詳しくは家族信託のメリット・費用ガイドもご参照ください。
まとめ|「使う前提」より「備える発想」
成年後見制度は最終手段の安全装置ですが、始めると引き返せない重さがあります。判断力があるうちに任意後見契約・家族信託・遺言書の3点セットで備えるのが、柔軟性・コスト・安心のバランスがもっとも良い選択です。
ゆいぽけのエンディングノートでは、かかりつけ医・判断力が落ちたときの希望・信頼できる家族連絡先を事前に整理できます。認知症発症前の「まだ元気な今」が、準備のラストチャンスです。認知症になる前にやっておくこともあわせて確認してください。
