「もし意識がなくなったら、延命治療をどうしてほしいか」——この問いに答えを持っている人は多くありません。しかし答えを用意しておかないと、残された家族が極限状態の中で決断を迫られます。この記事では、延命治療・介護方針の意思を整理し、ACP(人生会議)と連携させながら家族に伝えるための実践的な方法を解説します。
なぜ意思表示が必要なのか
日本では、終末期医療の判断を「家族の総意」に委ねるケースがほとんどです。本人の意思が不明な場合、家族は「本人はどうしたかったのか」という答えのない問いを抱えながら、医師と話し合わなければなりません。これは家族にとって非常に重い精神的負担になります。
厚生労働省の調査によれば、終末期における医療に対する希望を書面で示している人は全体の約8%に過ぎず、多くの人が「考えてはいるが伝えていない」状態です。意思表示をしておくことは、自分のためだけでなく、残される家族への最大のプレゼントといえます。
終末期に本人の意識がない場合、延命治療の継続・中止は家族の判断に委ねられます。「延命してほしかったのかどうか」で家族間の意見が割れ、後悔と葛藤が残るケースも少なくありません。
整理すべき3つの意思
① 延命治療に関する希望
- 心肺蘇生(CPR)を希望するか
- 人工呼吸器の装着を希望するか
- 胃ろう(経管栄養)を希望するか
- 回復の見込みがない場合の延命措置はどうするか
- 緩和ケア(苦痛を和らげる医療)の希望
② 介護・療養に関する希望
- 在宅介護を希望するか、施設入所を希望するか
- 終末期はどこで過ごしたいか(自宅・病院・ホスピスなど)
- 痛みや苦痛に対する緩和ケアの希望
- 介護の負担を家族にかけたくない場合の代替案(ヘルパー・施設など)
③ 臓器提供・献体に関する意思
- 臓器提供の意思(提供する・しない・家族に委ねる)
- 献体の希望の有無
- 健康保険証・マイナンバーカードの臓器提供意思表示欄の記載
ACP(人生会議)との連携
厚生労働省が推進する「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)=人生会議」は、延命治療だけでなく、自分らしい最期を迎えるための価値観・希望を家族や医療者と繰り返し話し合うプロセスです。エンディングノートへの記載と組み合わせることで、医療現場でも活用しやすくなります。
| 項目 | ACP(人生会議) | エンディングノートへの記載 |
|---|---|---|
| 目的 | 価値観・希望の共有・対話 | 意思の文書化・保存 |
| 相手 | 家族・医師・介護者 | 家族・信頼できる人 |
| 法的効力 | なし | なし(参考資料) |
| 更新 | 繰り返し行う | 定期的に見直す |
家族への伝え方:会話の切り出し方
多くの人が「こんな話をしたら家族が不安になる」と心配しますが、実際には「親が自分の希望を話してくれて助かった」と感じる子どもが多いことが調査でわかっています。大切なのは「決断を迫る」のではなく「考えを共有する」スタンスで話すことです。
| NGな切り出し方 | おすすめの言い方 |
|---|---|
| 「延命治療はしなくていい」と突然宣言する | 「最近終活のことを考えてて、少し聞いてほしいんだけど」 |
| 「死んだらどうするか決めた」 | 「もし意識がなくなったとき、あなたたちが困らないように伝えておきたくて」 |
| 一度に全部決めようとする | 「今日は延命治療の考えだけ話すね、他はまた今度」 |
年末年始や誕生日など家族が集まる機会、身近な人の訃報があったタイミング、健康診断の後なども自然に話しやすい機会です。重い雰囲気にせず、日常会話の延長として話すのがコツです。
文書化の方法:リビングウィルとエンディングノート
口頭で伝えるだけでなく、文書に残すことで医療現場でも参照できるようになります。主な文書化の方法は2つです。
| 方法 | 法的効力 | 主な内容 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| エンディングノート | なし | 希望・価値観・メッセージ | 自由に書ける。家族向け |
| リビングウィル(尊厳死宣言書) | 法的根拠は限定的 | 延命治療の拒否意思 | 公証役場で作成すると証拠力が高い |
エンディングノートに書く記載例
「回復の見込みがない終末期において、延命のみを目的とした人工呼吸器・胃ろう・心肺蘇生は希望しません。ただし、痛みを和らげるための緩和ケアは十分に行ってください。できれば自宅で家族に囲まれて最期を迎えたいです。臓器提供は希望します。」
「どこで・誰と・どのように」最期を迎えたいかを具体的に書くと、家族にとっての指針になります。完璧な文章でなくても、キーワードを箇条書きにするだけでも十分です。
かかりつけ医・介護サービスへの共有
エンディングノートに書いた内容は、かかりつけ医やケアマネジャーにも共有しておくと、いざというときに医療現場で活かしやすくなります。入院時には「自分の意思を書いたものがある」と伝えるだけでも担当医に意思が伝わります。
- かかりつけ医の名前・連絡先をエンディングノートに記載
- 服薬中の薬・持病・アレルギーを一覧化
- 緊急時に連絡してほしい家族の優先順位を明記
- 意思表示文書の保管場所を家族に伝える
定期的な見直しが重要
価値観や健康状態は変わります。一度書いたら終わりではなく、1〜2年に一度内容を見直し、家族と再共有することをおすすめします。入院・手術・大病のタイミングで改めて確認する習慣をつけると安心です。
よくある質問(FAQ)
Q:エンディングノートの医療意思は法的に有効ですか?
A:現時点では日本において法的な「尊厳死法」はなく、エンディングノートやリビングウィルに法的拘束力はありません。ただし、医師はこれを重要な参考資料として判断の根拠にします。法的効力を求める場合は公証人による「尊厳死宣言公正証書」の作成が有効です。
Q:家族が希望通りにしてくれるか不安です
A:書面があっても家族が従う義務はありませんが、複数の家族に同じ内容を伝えておく・かかりつけ医にも共有しておくことで、意思が尊重される可能性は高まります。
Q:子どもに「死」の話をするのが気が引けます
A:子どもにとっても、親の気持ちを事前に知ることはいざというときの大きな支えになります。「重い話」ではなく「自分の希望を伝えておく親切な行動」と捉えて、軽い口調から始めてみましょう。
まずは自分の気持ちを整理するだけでもOKです。「延命治療をしてほしいか、してほしくないか」を心の中で考えてみてください。ゆいぽけのエンディングノート機能では、医療・介護の希望を専用フォームで記録・保管できます。

